黒竜江志6
ドイツ国の商人リウドルフの支配人は、洋酒、バター、洋布を売って生活しているが、
また新しく客舎を建てているが半分ばかり出来ている。
メリケンコンジェルが何時かまた出来るといっていた。ラブセルフ島には小ガモ 
ロシア名「スタイチョ」がたくさんいるが、非常に人間を恐れている。
夕方になって手で岩間を探り、数十匹をとらえた。少し生臭いが実に美味だった。
その卵をアヒルに比べると、色は薄い藍色だが食べてよし。
また一種ツバメに似た変わった声のカラスがいた。
カモメ、セキレイ、ハトなどはわが国のものと変わらない。魚はマス、タラ、セイナなどだ。
函館近海では氷雪のころからタラの漁獲期になるが、夏の日にこの魚を見るのは実に珍しい事だ。
これは南去北来の気候を追って移動遊泳するためだろう。白鳥やガンに比べてみると分かる事だ。
海から10町ばかり離れた山の中に兵舎がある。この兵舎はロシアと英国が戦った時、
シベリア伯爵モラヒオフが、兵士2千人でつくらせたが、わずか2ヶ月で建てたという。
その土地は山を背に林が覆いかぶさり、樹木がうっそうとして、海上から眺めると、
とても人が住んでいるようには見えない。兵舎はおよそ18、丸木を重ね屋根は草土を覆い、
敵弾の破裂を防ぐようにしてあった。兵舎には病院、浴室 及び兵器庫には火薬や弾丸が
いまなお保管してある。木材を囲って兵道を造っている。兵道は林を通り抜け、山を越して
縦横に分かれており最も遠いものはキチ湖まで延びている。キチ湖は西北に行くこと
およそ8里のところにあり、そこは武器の貯蔵庫になっている。ある日英艦がひそかに
やって来て、兵営を伺っていた。ロシアの兵約2千人は満を持して待機していた。
英艦は平氏が潜んでいることを探りあて、大砲を撃って戦を挑んできた。
しかしロシア兵はこれに応じなかった。そこで英艦はしびれを切らして、ついに
大砲を杉板船に据え付け、兵士60人は急いで船を漕いで上陸しロシア兵を追った。
しかしロシア兵は樹間に隠れていたが、いきなり砲撃一せん、弾丸はうなりを生じて
英艦を砕き兵士は海中に落ちて溺れた。怒った英将はさらに艦を陸地に接近させ、
砲身が焼けるまで昼夜立て続けに攻撃した。しかし飛んでくる砲弾はみんな沢地に落ち
威力は無かった。結局英国の独り相撲に終わり、自分から疲れ果て錨をあげて逃げ去った。
そのころモラヒオフ伯爵は シベリア、バイカル湖にあってこの知らせを聞いたが、
別に喜びもせず「敵兵を上陸させ、不意打ちをかけ皆殺しにしなかった事は残念だ。」と言って、
将兵の功績を論じなかった。時に1855年、わが国の安政2年だった。
その後またバイカル湖に事変があり将兵はよく奮戦したので、ついに将某は提督の官に特進させた。